「シュラーさん」
テレスに話しかけられて、シュラーは人懐っこい笑顔を浮かべてこちらを見た。
「シュラーさんはいつもそうですね。わたしには笑顔しか見せてくださらない。
戦場で泣いていたという話、聞きました」
指摘されると、ぷうと頬をふくらませる彼。
「誰に聞いたのさー。大体予想はつくけど」
テレスは口だけ笑って、首を振り、明確にはしなかった。
「これからどうするんです?」
しばらくして、空を見上げながら、二人は話し込んでいた。
「ボクはね…しばらく、お墓に通うつもりなんだ。
レラスくんはもちろん、ボクの不注意で助けられなかった人がいっぱいいる」
するとテレスはシュラーを変なものでも見るかのように見た。
視線に耐えられず、シュラーは問う。
「なに?」
「昔の偉人の言葉を借りますけど。
自惚れるな、ひとりの力でなんとかなるものではない。ですよ」
ぱちくりとする相手に、テレスはお構い無しにたちあがる。
「でもいいです。
シュラーさんがお墓参りに明け暮れるなら、飛翔亭もお任せしちゃいます。
そろそろわたしも戦わなくてはいけないって思っていましたから」
びっくり宣言をすると、テレスは心から微笑んで見せた。
「テレスは強いね」
「いえ。わたしはたくさんのひとを守れなかったから。それだけです」
「そっか、もう行くんだね。
いいお仲間が見つかるといいネ~
あーでも、他の探索の人がみんなと一緒にいると思うとやっぱり寂しいのさー」
シュラーはぴょこぴょことしっぽを振って言った。
普段がおかしいくらいテンションが高いので、まだ本調子ではないのだろうが、
知らない人が見れば、普通に元気そうに見える、そんな様子だ。
「え? 魔法の指輪?」
ノワールに突然振られた話題。
それがなんのことだかシュラーにはわからなかった。
魔力がないリルビットには不要なものだと思っているから。――それをどうして。
疑問に思いながら、ノワールの差し出した紙を手に取った。
そこに書かれているのは、質屋の書類だと判断するのに充分な言葉と、
質に入れた品が指輪だということだけ。
まだ頭から?マークが取れなかったが、次の言葉を聞いて、
全身の血が凍ったような気がした。
レラスティがはめていた、赤い石の指輪。
それをよろしく頼む、そういう意味だと理解した。
「…わかったヨ。必ず」
彼が亡くなったとき、手をつかんで泣き叫んだ姿を仲間に見られた以上、
わざとおちゃらける必要はもう無いとシュラーは思う。
だから真剣な顔をして頷いた。それから言葉を続ける。
「もし…もし、一緒にまた旅をすることがあったら、レラスティくんも含めて
みんなで旅ができるってことだもんネ。
旅の無事を祈ってるよ。また会おうね、約束だよ」
そういって、白い小さな手を差し出した。

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