※旅団内対戦があったので伏せていました。完全版です。
○食べ歩き
吾妻さんのおススメに飛びつきます。
例えば、からあげ(フレーバーは梅塩味を選択)。
「はい。おいしい…です…」
おいしいか聞かれたらこう答えます。
聞かれなかったらひたすら食べるだけ。
でも本人はほわほわ幸せなのです。
しかし伝わりません。虚ろな瞳だから。
○戦闘
「…負けません」リフレクトコア奥義を使用。
「タム、お願いね」と、光の槍奥義を遠距離から投げます。
狙いは巫女から。
集中攻撃されている仲間がいたら、そちらの敵に目標を切り替えます。
もし、自分に接近してくる敵がいたら、距離をとるのが優先です。
モーラットは、後ろに待機させ、負傷者が出たら
「リリ、お願いね」と、回復に向かわせます。
○ 戦闘後
「ねこ…さん…」
辺りにいる猫と戯れ:後ろから徒歩で追いかけます。
記念撮影するそうなので、隅のほうに位置をとります。
○ 枕投げ
男女対抗枕投げ。自分は女です。
「まくら…」
戦闘開始前、そう言って枕をだきしめるとか。
女性陣の作戦なので、蒼月さん(b02095)に投げます。
囮的な意味で真正面から。
「まくら…です…」
その後は吾妻さん(b02168)に親愛をこめて(懐いています)投げます。
ひたすら投げます。
なんで俺ばっかりなんだ、と言われたら、
「…吾妻さん、だから…です」
と答えます。
狙われたときは当たります。ぼんやりさんだから避けられないのです。
○お土産
名前:招き猫のキーホルダー
説明:デフォルメされた木彫りの猫のキーホルダー
●観光
綴った歴史の面影を色濃く残す町。『みやこ』と謳われるこの場所は、戦いともゴーストとも縁が無さそうに映る。
観光客が憧れて止まない西のみやこは、結社『屋上倶楽部』の仲間達のことも、腕をめ広げ歓迎した。
「んじゃあ俺主催俺引率! 食べ歩きツアー開始すっぞー!」
「「おー!」」
到着してすぐ吾妻・奈緒(デスペラード・b02168)の第一声に、仲間たちの声が嬉々として重なる。
学生でいられる期間は限られていて、結社の仲間と過ごせるこのひとときもまたかけがえのない時間だ。だからこそ『屋上倶楽部』の面々は、この商店街を訪れていた。
――皆と一緒に過ごせる機会、大事に過ごしたい。
そこかしこに鏤められた賑やかさへ耳を傾け、明葉・如路(玖音の辺葉・b00546)は冷え切った空気を大きく吸い込む。
寒さに悴む感覚も、仲間と共に歩けば然して気にならない。誰もが白い息をぽうぽうと浮かばせて、京の町をゆく。
「こういうのも屋上倶楽部らしいよね」
夜光・一輝(皮肉屋ロビン・b01989)が、空腹を刺激するいくつもの匂いに鼻をひくりと動かした。先ほどから、食べ物の匂いが道行く人の気持ちを知ってか知らずしてか、気ままに商店街を漂っている。一輝に限らず誰もが、匂いに翻弄されていた。
視線も意識も匂いにつられ四方八方へ流される面々を振り返り、奈緒が皆の意識を手繰り寄せる。放っておくと、何人かいなくなっていそうだからだ。
「迷子になるなよー。あとコンビニの袋持ったか袋」
ゴミ袋代わりになるからと、奈緒が出発前から念を押していた豆知識だ。尋ねられて全員が白い袋を振り鳴らす。
食べ歩きもそうだが、時折見える昔ながらの建物や寺社仏閣も見所の一つだろう。今回寺社仏閣の類は通過するのみだが、眺めるだけでも日本の趣きを感じられる。
「生田もこういう雰囲気好きそうだな」
十六夜・瞳(宵闇の歪・b02156)に声をかけられ、生田・修(スリーピングオウル・b76981)は頷いた。
「ああ、俺は結構好きだな。いつかゆっくり回りたい」
散歩するのにも良い場所だと、修は目を細めた。
「ほー、こーいう場所があるもんなんだねぇ」
降り注ぐ陽射しを手で遮り、マリス・アンダー(古い鉄の孤狼・b31212)は連なる建物からそのまま空を仰いだ。
そんな仲間を微笑ましく眺め、奈緒はカメラを手にする。思い出を詰めるべく用意したものだ。ファインダー越しに皆の表情を捉えれば、笑い声も興奮による熱も、今この瞬間のすべてが手の中へ収まりそうな気がした。
「そうそう。俺のおすすめはぬれおかきとたこせん、あと味付けが色々選べるからあげな」
「たこせん買いました」
行列が出来る前にと、蒼月・桜華(桜祈女・b02095)が店へ足早に向かう。味付けで迷う楽しみを味わうから揚げを選ぶ者も多く、桜華と一輝に至っては今し方たこせんを買ったばかりだというのに、既にから揚げやらたい焼きやらにまで手を伸ばしている。
たくさん食べるなぁ、と奈緒が思わず感心した。
「喰いすぎ? いや、フツーやよこれ」
一輝が当然のように言えば、桜華もそうですよと同意しだす。二人の健啖家っぷりにはある意味舌を巻く。
真っ白なたい焼きのもちもち感を味わう瞳の傍ら、天道・ナナ(虚を見る少女・b44835)は黙り込んだまま只管から揚げを頬張っている。
「しいたん見てナナちゃんリス!」
膨らんだナナを見て、瞳が楽しげに告げた。ナナ当人はから揚げを噛み締める度に味わう幸福感で、絶賛ほわほわタイム中だが。
――京都に来ても食べ歩きというのは、屋上倶楽部らしい。
修は修で、自分たちらしさという幸せも噛み締めていた。そしてたい焼きを手に取ったところで、如路の眼差しに気付き首を傾ぐ。
「これ欲しいのか?」
こくりと頷き返されたので、はんぶんこ。
「私のお目当てはこれ! エッグタルトなのだ!」
ビシィ!! と派手に音が鳴る調子で瞳が指差したエッグタルトは、黄金とも取れる美しい色彩に焦げ目が入り、食欲をそそられる。この町ならではの食べ物の一つだ。
「え、エッグタルトもうまそー……」
「よしマリス、一緒に買って喜びを分かち合おう!」
エッグタルト組が店へ向かうのを見送り、一輝はふと浮かんだ疑問を奈緒へ問う。
「……あれ。食費って誰持ち?」
「何言ってんだ自腹だぞ」
「!!?」
八割の人が大富豪なんだからいいじゃない。
そんな生々しい話をしていると、桜華が「あの」と口を挟む。
「ところで、食べながら猫を愛でられる所は無いでしょうか?」
「愛でるっていうか、そろそろ助けに行くかー」
そう言って奈緒は空を見上げる。食べ歩いているうちに、すっかり空は茜色に染まっていた。
●寺
写真の光景を頼りに奈緒たちが訪れたのは、永く人を寄り付かせていないであろう寺だ。
愛らしい猫とはあまりに不釣合いな組み合わせの原因、うごめくような残留思念がそこにはいた。奈緒がぽんと放り入れた詠唱銀は、思念の輪郭を縁取るように、人影を浮かび上がらせる。
巫女と出仕の姿を模した影が四つ。地縛霊だ。
無念ゆえにか殺気にか、或いは様々な負の感情にか、巫女の地縛霊は枕を、出仕は箒を握り締めている。能力者たちはすかさず自分の立ち位置を確かめ、能力を高める行動に移していく。
「お寺らしいって言えばそうなるのかな」
ワンダラーの饕餮がステッキを振るい魔力を供給する傍ら、奈緒が呟く。彼の呟きに、一輝と桜華が目を瞬いた。
「逆に服装だけなら健全……?」
「突っ込みどころが多すぎて、突っ込みしきれません。特に巫女」
「ああ、一体どのような経緯で枕を得物にしたのか」
二人に続いて修が口を開いた。
彼らが怪訝そうに眉をひそめるのも無理は無い。
何せ現れた地縛霊のうち、巫女を模した地縛霊の手にあるのは――見紛うことなき「枕」なのだから。
「……負けません」
しかし得物が何であろうとゴーストはゴースト。
コアで守りを固めていたナナは、決意を唇に刷き閃光を走らせる。光が巫女を貫くと同時、修が指に挟んだ呪符は枕に使い道を与えるかのごとく巫女の一人を夢へと誘う。
唐突に吹いた風は埃を伴い、直線上を駆けた。マリスが埃の合間から前方を見遣れば、出仕がさっさと箒で地面を掃除していて。
修のマンゴー・ファラオのメソが、眠らなかった巫女へと突撃する。お目覚め中の巫女が投げてきた枕をさっとかわし、マリスは己と相手とを繋ぐ鎖を生み出す。
「これはこれは……すみやかににゃんこを救出せねばなりませんね、うむ」
廃寺が猫の集会場であるなら聖域を汚すことは許さないと言わんばかりに、鎖を伝った怒りが巫女を支配する。
続けて桜華は大いなる宇宙より隕石を呼び寄せた。彼女の憤りを表わすかのように滾る炎が、未だ密集していた地縛霊たちを巻き込む。
ふと、戦の音ばかり満ちるここに、如路の歌声が響く。そして歌が戦場を包む中で一輝は。
「別に僕は猫を助ける為じゃ……まぁ写真の猫かわいかっ……コホン」
決意を改めながら不死鳥の力と共に巫女を葬り、落ちた不死鳥の名残はやがて眩い輝きに包まれる。それは瞳が背負った十字架の後光だ。
直後、再び出仕の箒が埃を舞い上げ、能力者たちを襲った。続けて巫女の歌が響き、能力者たちを次々眠りに陥らせる。
「リリ、お願いね」
目をぱちぱちして眠気に耐えたモーラットへ、ナナが指示を出す。
すかさず踊った饕餮に続き、修は「朝だぞ」と仲間から睡魔を拭い去るための呪符を放ち、奈緒は穢れし呪符でもう一体の巫女を天へ送った。
そしてメソのタックルが出仕の胸元を叩けば、桜華の振るった黒影の異名を持つ一手が、出仕の命を消す。
「可愛い猫達のひなたぼっこタイムのためにも……!」
堂々と意気込みを口にし仲間をファンガスで援護するのは如路だ。穏やかな癒しを受け、マリスが地を蹴った。
「一撃の重さを重視してるんで……ねっ」
気合とともに狙いすました一撃は、ずっしりした重さを乗せて、最後の地縛霊をあるべき世界へ返した。
かつては賑わいを見せていたらしき面影だけを落として、寺は再び静寂に包まれる。
胸を撫で下ろした如路が顔を上げる。視界に飛び込んできたのは、マリスやナナたちは根城へと戻ってきた野良猫の群れと戯れている姿で。
「わ、私も混ざる……!」
思わず声が震えた。
一方、桜華は連れ帰れないことが不服そうだ。
「猫なら帰れば沢山居るでしょーよ」
「それはそれ、これはこれです」
一輝のため息に、桜華も同じように息を吐いた。こちらは残念そうな吐息だが。
すぐ横では二人の会話を聞いていた奈緒が、きょとんとする。
「えっ。連れて帰っちゃダメですか」
「気持ちは解るが……猫は慣れた場所が良いのかもな」
そう瞳を眇めた修の足元へ、同意するように猫が纏わりついてきた。
●枕投げ
宿でやることと言えば、ある程度相場が決まっているものだ。
温泉地なら卓球大会だろうし、夏場なら怪談か肝試し。そして学生旅行ともなれば、恒例なのは ――。
「枕投げ大会! ですな!」
奈緒が燦々と笑って宣言した。
「まくら……」
「さぁ枕投げや!」
「楽しみましょうね!」
仲間もやる気十分で、敷き詰めた布団の上でスタンバイしている。
男女別での対抗戦となるが、単に投げ合うだけでは面白くないだろうと、ここでひとつの提案が入る。
「負けたほうが部室の掃除な!」
提案を耳にし、仲間たちが固まった。大抵の学生は任された掃除を嫌がるものだろう。部屋掃除なんてごめんだ、とばかりに皆の瞳に闘志が宿る。
男子と女子に分かれたところで、女子は顔を並べて作戦会議。
「とにかく投げ……」
「頭脳プレーでいこうではないか!」
妙案を思いついたらしい瞳が、如路の言葉を遮ってひそひそ話を始める。
「作戦会議まだ続く?」
「だ、大丈夫だ。終わった」
マリスの問いに、何やらぎこちない様子で如路が答えた。
準備万端と判ればいよいよ決戦のとき。口火を切ったのは奈緒の一言だ。
「よおし皆! 俺に続けッ!」
狙うは怪我も疲労も溜まっていない相手――しかし全員ピンピンしていた。これでは誰を狙っても同じだろう。
枕をがむしゃらに放る奈緒の斜め後ろ、一輝が枕を大きく振りかぶる。
「負けられん……!」
ごう、と音を立てて枕が桜華と如路の間をすり抜ける。次の瞬間、男子チームから飛ぶ枕の雨。
文字通り容赦の無い投げっぷりに、女子チームは互いに視線を重ねて頷いた。
「明葉さんここは二人で」
「え」
ぐっと拳を握る桜華とは対照的に、如路の反応は宜しくない。更に瞳がぐいぐいと後押しする。
「さあ悩殺だっ!」
「のうさ……?」
「ちょ、待て、やること確定か!?」
思わぬ単語を耳にした気がして、目を瞬いた奈緒の肩をぽんと叩き、マリスが真面目な物言いで戦法を囁く。
「まずは相手の数を減らすこと。数的優位に立つべし」
「一人ずつ確実にってことや」
「俺もそうしよう」
呼吸も合ったところで、先ほどからボーッとしているように見えるナナ目掛け、男子たちの枕が飛ぶ。軽やかな足取りで後退したナナは、投げられたうちの一つをぎゅっと抱きしめるように受け止める。
しかし力任せ、否、正攻法で挑む男子とは反対に女子たちの思惑は水面下で進行していた。
観念したかのように如路が息を吐き、桜華と揃いでパジャマの第一ボタンを外す。あまりの潔さとすばやさにぎょっとする暇もなく、桜華と如路が若干肌蹴させた胸を強調する。
強調といっても、豊満な桜華はともかく如路の方は――。
「「はしたない!!」」
「寒くないのか?」
男子チームの反応は、ちょっぴりズレていた。
「ええっ、悩殺ポーズに釘付けになっている隙に総攻撃でやっつける作戦だったのに!」
「おまえか発案者!」
奈緒が瞳へストレートを放った。
発案者である瞳も、今はただ残念がるしかない。そして枕を投げ損ねたナナがいる一方、如路は周囲の空気もろともずっしり沈んでいた。
――谷間どころか……。
切実な願いは、声にならずして終わった。
「男性陣」
低く地に響いた桜華の声に反応した男子チームが、思わず身構える。素敵な笑顔を保っているのに、引っかからなかったという悔しさの思念が隠せておらずあふれ出していた。
「あとでちょっと裏に来て下さい」
「あ、後っていつ……」
「裏って何処だよ」
「それでしたら、今ここでお仕置きといきましょうか」
猛攻体勢に入る怒りの少女に便乗し、瞳は枕をふかふかして目を瞑っていたナナの肩をゆする。
「こうなったらナナちゃん今なのだー! 一緒に投擲!」
「まくら……です……」
「くっ、こっちも負けてられない」
暫し止まっていた対抗戦も、漸く先ほどの騒がしさを取り戻す。
もはや八つ当たりとしか思えぬ様子で、如路も枕を全力投球し始めた。感情任せなのでコントロールに不安は残るが、その分威力が増している。
「この……!!」
「うぶっ」
如路の一撃は見事、修の顔面へヒットした。
これがバッドステータス「怒り」の実態である。
そんな調子で殺気立っているようにも見える女子チームに押されかけはしたが、男子チームも負けじと反撃に出た。
「そうだ最終奥義猫写真! 可愛い猫写真で悩殺……!」
「うわその悩殺は……っ!」
寺で撮ってきたらしき数々の猫フォトから仲間を庇うべく、奈緒が両腕を広げ仲間の前で盾となった。
だが。
「猫…… 猫ー……」
悩殺されたのは如路の方だった。桜華が必死に彼女を呼び戻している。
マリスはといえば、身を挺してくれた奈緒を迷わず盾にし、両利きを生かしてダブル投げに挑む。
「ただ無心で撃つべし! 撃つべし!」
「……吾妻さん、に……まくら、です」
親愛の情を込めて、ナナが奈緒へ弧を描いて枕を飛ばした。他の枕や人に当たることなく奈緒へ直撃した。天才級のコントロールである。
それにしても、と瞳は仲間たちを一瞥する。
「一輝はでかくなりすぎなのだ~っ!」
「確かに中一から十五センチぐらい伸びたけど、しゃーないでしょ負けたくな……べふっ!」
言い終える前に、瞳からの枕が顔を覆っていた。わなわなと震えた一輝が、顔からはがした枕で仕返しに出る。
「おらぁーッ!!」
怒りに身を任せたためか、当たったのは瞳でなくナナだった。想定外だったのか、ぶつけた主である一輝も「あ」という顔をして。
同時に、奈緒が声に出して笑い出した。
肩で息をし、布団も枕もすっかり乱れてしまった部屋が、彼の笑い声により一瞬だけ静寂に包まれる。そして我に返ったかのようにそれぞれつられて笑い出す。
存分に笑いきった後、疲れ果てて互いに「おやすみ」と「また明日」を告げる。
いつものメンバー。いつもの光景。場所はいつもと違って屋上ではないけれど。
こうして、屋上倶楽部の卒業旅行は幕を閉じた。
屋上で浴びる春の陽気のような、優しい思い出を残して。
PR